先輩、お久しぶりです
「俺は元に戻りたいと思ってる」
「今も昔も、ただの先輩後輩です」
「もう一度千春と付き合いたいんだ」
「…………は?」
一瞬にして浮かんだ涙はどこかへふっ飛んでしまった。
――もう一度、付き合いたい??
私の聞き間違いでなければ、そう言った。
待って。私たち“ただの”先輩後輩、だったよね?
どれだけ思い出しても大学時代付き合った記憶なんてない。先輩に去られてからも何度となく一緒に過ごした日々を思い返したけれど、そんな素振りは一度もなかった。
まして、二人で出かけても先輩は私に何ひとつ手を出してこなかった。
片想いをしていた私にはそれがもどかしくて、やっぱり何とも思われてないんだという悲しさと共に、この関係を壊したくないという思いから自分の気持ちに蓋をしていた。
だから、ただ仲の良い先輩後輩だと思ってた。
なのに……付き合ってた!?
「わ、私たち付き合ってなんか、なかったですよ」
「付き合ってただろ」
その言葉を聞いて、私は倒れた体を勢いよく起こし先輩の胸を押し退けた。
頭が混乱する。
「付き合おうとか……好きとか、言われたことない」
「言わなくても、ずっと一緒にいたら付き合ってたと思――」
「お、思わない!思うわけないじゃないですか、そんなことっ」
ただ一緒にいるだけで恋人同士になれるなんて誰が思うだろう。そんな簡単に付き合えるなら、誰も苦労はしない。
そんなこと小学生にだって分かる。
ソファにもたれた姿勢で呆然としている先輩も、言葉を失っていた。