先輩、お久しぶりです
定時前、ドキドキしながら時計の針を見てはソワソワしていたけれど、急な来客があり急遽私が対応することになった。
秘書室の先輩方は金曜の夜とあってか、それぞれに先約があったため定時になると申し訳なさそうに帰って行ってしまった。
いつも短時間で終わるお客様だからすぐに終わるだろうと安心して、昂良先輩に少しだけ遅れそうだと連絡を入れた。
するとすぐに『待ってる』とだけ返信が返ってきた。
それでも待たせていると思うと時計を見ながらじりじりと焦ってしまう。
なのに気持ちとは裏腹に終わったという役員からの連絡は一向になく、このままだと1時間以上は軽く要してしまいそうだ。
暫くしてもやはり役員からの連絡は入らず、まだまだかかりそうな雰囲気にこれ以上先輩を待たせるわけにもいかず、また連絡を入れることにした。
『まだ来客対応中で終わりそうにないので、延期していただけますか?』
とラ◯ンを入れると『わかった』と簡潔な文字で返事が返ってきた。
その文字を見て、急に肩の力が抜けたような気がして体を机に突っ伏した。
「はぁ……」
パソコン横の鳴る気配のない電話機をしばらく横目でじっと見つめながら、落胆のため息を吐いた。
結局定時から2時間ほど経過してやっと終わることが出来た。
役員室へカップを取りに行き、それを洗い流し片付けてから給湯室を掃除して業務終了となった。
秘書室の先輩方は帰っているから室内には私一人。無性に疲れた気持ちでのろのろとパソコンの電源を落とし、部屋のチェックをしてから秘書室を出た。
何もしていないのにやけに感じるこの疲労感は、昂良先輩の誘いを断ったのが心の奥で引っかかっているからだろうか。
今まで逃げてばかりだったくせに、無性に辛く感じる……。
ボーッとしながら私服に着替え1階ロビーへ向かった。
広いロビーにはお客様が休憩したり、ちょっとした商談用に応接ソファとローテーブルが何組か置かれている。
私はエレベーターから降りて視線を左側に向けると、窓際の一角のソファに誰かが座っているのが見えた。
受付も終了しているこんな時間に誰か待ってるのかと不思議に思いながら歩いていくと、見覚えのある背中にハッと息を飲んだ。