先輩、お久しぶりです
恐るおそるゆっくり近づいて見ると、先輩が腕を組んだ姿勢のままスヤスヤと居眠りをしていたのだ。
「――うそ。どうして……」
さらに目の前まで近づき腰を折って覗き込むと、長い睫毛を伏せた端正な寝顔でぐっすりと眠りこんでいる。
私が近づいてるのに気がつかないところをみると、よほど疲れてたのか寝息を立てていた。
――帰ったんじゃなかったの?なんでここにいるの?
フロアを見渡しても誰もいない静まり返ったロビーには、私以外に先輩と待ち合わせしている人が来る気配はなさそう。
ということは、もしかしてこの時間まで待っててくれた、とか?
いやいや、まさか。でも……
と頭の中で押し問答が続く。
そんな意味のない疑問もシュルシュル消えて、覗き込むようにまた先輩の寝顔をじっと見た。
目鼻立ちの整った寝顔。長い睫毛に高い鼻梁、程よく肉付いた唇に男らしい輪郭。
黙ってるだけなのに、これほどの男前が私を好きだと言ってくれてるなんて信じられない。
この間まで誤解したまま憎み合っていたような関係だったのに。
そしてこの血色のいい唇でキスされたかと思うと……と、また心臓がドキドキと脈打ってきた。
こんなふうにドキドキしてしまうほど単純に嬉しいくせに、なにを強がってるんだろう。
冷たく背中を向けられたのは私に失望したのが原因なのに、自分の理想や期待した通りの結果にならなかっただけでトラウマになったと喚いて。
ほんと自分がバカらしくなってくる。
バカすぎて、自分にイライラしてくる。
「はぁ……」
聞こえないように小さくため息を漏らして、また見下ろした。
よく見ると肘掛けのついた一人用のソファに座って寝入っている姿は身長の高い先輩には窮屈そうで、長い脚を組んで避けていてもローテーブルに膝が当たって痛そうにしている。
テーブルを避けるか揺すって起こさないと体が辛くなりそうだ。
それにこのまま寝続けるのは良くない。そう思い起こそうとしたが、肩を揺するより不意に触れたくなって、そっと人差し指の背でふわりと頬に触れてみた。