先輩、お久しぶりです
「……っん〜〜!ふぁぁ、あ?」
触れた拍子に身じろぎした先輩が薄っすら目を開けたのに驚いて、急いで手を引っ込めた。
腕を伸ばしてノビをしながら、眠そうな唸り声を上げて座り直した先輩と目が合う。
「やっと終わったか」
「か、帰ってなかったんですか!?」
驚きを隠せないまま後ろへ退くと、先輩は腕をぐるぐる回して肩をマッサージしつつ見上げてきた。
「帰るなんて言った覚えないけど」
「延期してくださいって連絡入れたら、分かったって言ってたじゃないですか」
「待たれてると思うとプレッシャーになるだろ。それにこれ以上先延ばしに出来ないからな」
「ーーっ」
ぐっと言葉に詰まる。
さっきまで端正な顔で寝入ってたいたのに、今は眉間に皺を寄せて不機嫌そうにしている。
そして私もまた口を開けば憎まれ口を叩きそうになり、咄嗟にそれを飲み込んだ。
待っていてくれたのに、文句を言うのは筋違いだし返事を待つのに痺れを切らしているだろうことは、言わなくても分かってるのについ口調が強くなる。
ほんと私ってどうしようもない……。
先輩は固まった体をほぐすように立ち上がり、腰を捻ってから鞄を持ち上げた。
「とにかく出るか」
「そう、ですね……」
そのまま会社のエントランスを出ると、肩を並べて駅へ向かって歩きだしたが、先輩はまだ寝足りないのか鞄ごと両手を上げて伸びをしていた。
その顔を見ると疲労が見てとれる。
「疲れてるくせに……」
ボソッと呟いたつもりが聞こえていたらしく、伸ばした手を下ろすタイミングで私の肩に腕を置かれた。
「わっ!?」
「あ〜ぁ。待ちくたびれたから家まで送っていけよ」
「え!?な、なに言ってーー」
「あと、ご飯も作って」
「えぇ!?」
肩に体重を置かれ、耳元まで顔を寄せ甘えてくるように囁かれると、ブワッと頭の先まで赤くなった気がした。