先輩、お久しぶりです
それを分かってなのかどうなのか、肩に置いた手は自然な流れで腕から掌へと滑り落ちながら握られ、繋いだまま強引に電車に乗り込んだ。
その流れるような触れ方がやけに生々しくて、意識し過ぎてずっと心臓がドキドキしている。
「ほ、ほんとに作るんですか?」
「もちろん。じゃないと俺の今日の晩飯がない」
「どこかで食べて帰ればいいじゃないですか」
そういうことじゃないと察しつつ、突き放すように言うと先輩は横目でじろりと見下ろしてきた。
「千春の手作り飯が食いたい」
「っ!」
ほんとズルい……。
いつからこんなに甘えるのが上手くなったのか、まったくもって心臓に悪い。
そしていつも使う駅の2つ手前で降りると、駅前のスーパーで簡単に買い物を済ませたあと先輩のマンションへとやってきた。
それまでずっと手は繋いだまま一度も離してくれない。むしろ逃げられないように捕まえられているといった方がいいのかもしれない……。
「ちょっと着替えてくるから、台所適当に使って」
「あ、はい……」
部屋に入るなり鞄を置いたあとネクタイを緩めながら洗面台へと向かった先輩。
帰ってきてすぐにリラックスモードに入るのを見せられると、途端に拍子抜けした気持ちになる。
まぁ、いいんだけどね……変に構えられるより。
とりあえず慣れないキッチンを借りて調理をはじめた。
スーパーで何を食べたいか聞くと、かつ丼と言うので揚げてあるカツを買って玉ねぎと卵でとじた。あとはお味噌汁と一人用のパックで売っていたお漬物を添えれば完成。
以前手伝ってくれた時はぎこちない手つきであまり料理はしないんだと思ってたのに、調理器具や調味料は一式揃っていて驚いた。
ただ、そのどれもがあまり使用されてなさそうだったことに、なぜかホッとしてしまう現金な自分もいたりして……。