先輩、お久しぶりです
そんなことを考えながら簡単に作った料理もあとは器に移すだけというところで、Tシャツにスウェットパンツというリラックスした格好で先輩が近づいてきた。
スーツ姿ではわからない筋肉が薄っすら浮き出ているのが、やけにセクシーに見えてドキッとしてしまう。
「ひゃあっ!!」
「いい匂いだな」
横に立つかと思いきや、不意に背後から抱きしめられ驚いた。
さらにお腹に手を回され頭上から声がすると、スッと真横に顔が覗き込み頬が触れ合った。
「ちょっ、は、離れてください!」
「はは、こういうの前からしてみたかったんだ」
してみたかったって。
なにもこんな緊張する時にしないで欲しい!
なぜか嬉しそうな声でじゃれつくように抱きしめられて、背中から熱が伝わってくる。
その隙間もない距離に一瞬にして鼓動が激しくなった。
「な、なに言ってるんですか、もう食べられるので向こうに行っててください!」
「味見してやろうか?」
「結構ですっ。器に盛るので邪魔しないで」
「ん~……」
すると今度は息がかかっているのか首筋に生暖かさを感じ、くすぐったくて肩を上げ身じろぎして避けようとした。
「ちょっと、先輩!」
「千春の髪、いい匂いすんな」
「えっ!?ちょっ、離れて」
「こんなことしてると新婚夫婦みたいだよな」
「何言ってーー」
『夫婦』と言われ、カァーと顔が赤くなる。
恥ずかしくて避けようとしても、すっぽり腕の中にはまっている私はもぞもぞするだけでたいした抵抗にもならない。
この雰囲気に戸惑いながら、また何か言われると身構えてたのに先輩は急に静かになり動かなくなった。
どうしたんだろ?
「先輩……?」
「……この3週間近く、千春から連絡がこなくて心配した」
さっきまでのはしゃぎっぷりから一転、ぼそりと呟くように背後から聞こえてきた言葉。
その言葉にズキッと胸が痛んだ。