先輩、お久しぶりです
「なに?飲み会の話?僕も混ぜてよ」
笑いながら近寄ってくる的場さんは安定の軽さでブレない。反面、先輩はムスッとしていた。
出先で何かあったのだろうかと心配になるけれど、これはこれでいつもの先輩。
最近の緩い顔を見てるから、仏頂面を見ても怖くなくなってきた。
「仕事の話なのでまたの機会にお願いします」
「あらら、怒んないでよ。冗談だよー」
受付嬢の彼女は的場さんの言葉をズバッと切り捨てていた。的場さんも断られ慣れてるのか、まったく凹んでない様子。
チラッと先輩を見ると、的場さんに呆れたような顔をしていたけれど、私と目が合うと私にだけ分かるくらいの表情で目を細め、口の端を上げて笑いかけてきた。
それが秘密の合図のようで、何もないのに妙に照れくさくなる。
「それじゃあ、またよろしくお願いします」
「はい。またご連絡しますね」
そう言って受付ロビーから離れると、的場さんと先輩と一緒にエレベーターへ乗り込んだ。
階数表示板を見上げていると、的場さんは分かりやすく私の真横に立っている。先輩は口を開かないまでも反対側の私の横に立ち、見えない距離で体が触れ合っていた。
「そうだ千春ちゃん。最近一緒にご飯行けてないよね。なんか全然タイミング合わないしさ、いつがいいか約束し合わない?そしたらお互い都合つくじゃん」
ニコニコと隣に先輩がいてもお構いなしにまた誘ってきた。さっきも受付の彼女に断られていたのに、めげてない。
私たちが付き合ってるの知らないから気にしないんだろうけど、こんな密室で先輩もいる前で堂々と誘ってくる的場さんの鋼メンタルに頭が下がる思いだ。
って、そんなことに感心してる場合じゃない。