先輩、お久しぶりです

和解


同じ会社ということを知ってしまうと、どこかでばったり会うんじゃないかとか、お昼休みの食堂でたまたま会ったら嫌だなとか、話しかけられたらどうしよう……と今まで気にもとめなかったことがやけに気になってしまう。


そんな偶然今まで一度たりともなかったのに、気になりだすととことん意識してしまう。


『自意識過剰』


飲み会の帰りに言われた言葉が、頭に張り付いて離れない。


もうなんとも思ってないとはいえ、数年ぶりに再会したかつての片想いの相手に意識しないなんて出来るわけない。


だけど自意識過剰は言い過ぎだと思う。
あの時はあきらかに先輩が纏わりついてきたのに!


金曜日は貸し切りになっていた居酒屋さんの宴会場で、くじ引きで決められた席に着いた時は先輩は居なかった。


なのに知らないうちに目の前に座っていた時は、本当に心底驚いた。
初めは似ている人なのかと思ったけど、軽く自己紹介をした時に先輩だと確信。


その後は『元気だったか?』とか『久しぶりだな。同じ会社だとは知らなかったよ』とか懐かしさを味わうような、そんな会話があると思ったのに……終始無言の無表情で、口を開いたかと思えば嫌味ばかり。


嫌味ったらしいのも相変わらずだけど、性格も初めて会った時のように冷たくなっていた。
あの頃のように、楽しく笑い合う間柄ではなくなったんだなと嫌でも思い知ることになった。


「やめやめ!」


過去を回想していた頭を仕事モードに切り替えるため、背筋を伸ばし書類を腕に抱えながら、コツコツとヒールを鳴らして廊下を歩いた。


「若宮さん」


聞き覚えのない声に突然呼び止められて振り向くと、飲み会の席で昂良先輩の隣に座っていた的場さんだった。


「どこかへ用事?」


にこにこと愛想良く話しかけてきた。
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