先輩、お久しぶりです
そのあと私たちはひとしきりお喋りをし、笑い合って楽しい時間を過ごした。
本当にこんなに充実した時間を過ごしたのは久しぶりなくらい、楽しいひとときだった。
帰り間際、玄関まで見送ってくれた二人にお礼を言って出る寸前、美香が昂良先輩を呼び止めた。
「先輩、もう無いとは思いますけど、今度千春のこと泣かしたら次は絶っ対!許さないですからね」
そう強く言い放つと昂良先輩は息を吐くように頷いた。
「あぁ、分かってるよ」
「それと、これからは千春をめちゃくちゃ幸せにしてあげてください」
「もちろん。それも心配いらない」
「……ふふ、それなら安心しました」
お互い確認しあうような内容に、私は気恥ずかしくなりながら聞いていた。
すると美香はニコッと笑ってから、膨らんだお腹を支えていきなりお辞儀をした。
「それと今さらですが、私たち夫婦共々今後ともよろしくお願いしますっ」
「えっ、美香!?」
私はつっかえたお腹を苦しそうに曲げている美香が心配になり慌てて近づこうとすると、今度は陵介先輩も同じように勢いよく頭を下げた。
「俺からもよろしく頼む」
私はあわあわと困惑しながら昂良先輩を見上げると、彼は唇を少し噛んでから同じように深々と頭を下げた。
「俺たちの方が迷惑をかけるかもしれない。けど、こちらこそこれからもよろしくお願いします」
それを見て慌てて私も頭を下げると、しばらくしてなぜか四人同時に顔を上げた。
その様子が可笑しくて、一斉に笑い合った。
「ふふ、ごめんね引き止めて。昂良先輩また遊びに来てください。千春もまた連絡するね」
「うん、今日は本当にありがとう。陵介先輩もありがとうございました」
「千春ちゃんまたいつでもおいで。昂良もな」
「おう。じゃあまたな」
そう言い合ってから、解散するのが名残惜しく感じながら井口家を後にした。
帰り道、駅までの道のりを手を繋ぎながら歩いていく。
あれから散々飲んで騒いだのに、頭はスッキリとして晴れやかな気分だ。
逆に酔っているせいもあるかもしれないけど、それだけじゃない清々しい気持ちが、少し涼しく感じる夜風を受けて余計に気持ちがいい。
「やっぱり、何年経ってもいい奴らだな」
「ほんとそうですね。あの二人と仲良くさせてもらえてることが凄くありがたいです」
「うん。ずっと友達でいてくれた千春にも感謝だな」
そう言うと、ポンと頭に手が置かれ柔らかく撫でられた。なんてことないのにそれがすごく安心した。
「じゃあ俺らもアイツらに続くか」
先輩は目を細め柔らかく笑って見下ろした。
「千春、会えなかった空白は埋められないけど、これから先はずっと一緒にいよう」
その言葉に驚き、肩を並べて歩く先輩に体を向けるとそっと唇が重なった。
「俺と結婚してください」