先輩、お久しぶりです

「若宮さん、このデザートも美味しいよ」

「……ん、ほんとだ!美味しい〜」


勧められたラズベリーのチョコケーキを一口頬張ると、甘酸っぱいのに後味も爽やかで何個でも食べられそうなほど美味しい。


「若宮さんは甘いもの好きなの?」

「はい、何個でも食べられちゃいます」

「じゃあさ、オススメのケーキ屋さんあるから今度食べに行かない?『ルバン』てとこなんだけど、美味しいって有名なとこなんだ、知ってる?」

「あ、なんか聞いたことあります」

「テレビにもたまに出てて、カフェスペースもあってゆっくり食べられるんだって。ケーキ何個でも奢っちゃうから、一緒に行こうよ」


的場さんは軽いけど、誘い方がうまいと思ってしまう。ケーキは嫌いじゃないし、聞いてると行きたくなってくるのは女子の性だから仕方がない。


的場さんと付き合うつもりはないけど、軽く乗ってみるのもたまにはいいかも。
そう思って返事をしようと口を開いた。


「あ、じゃあ――」

「気をつけろよ千春。こいつ、そうやって誘って口説くの得意だから」

「「え?」」


ずっと黙っていた先輩が口を開いたかと思えば、その一言で私も的場さんも食べていた手がピタリと止まった。


隣に座る的場さんは驚いた顔で先輩を見ている。私も目を見開いて彼を見た。


「あ、えと……」


『千春』って言っちゃったよ。
知らない者同士の初期設定の意味が……。


「釣った魚に餌はやらないし」

「へ、へぇ……それは苦労しそうですね」

「釣ったら興味なくなって、他の女釣り上げに行ったりするしな」

「そ、それは……」

「まあ、男がいるお前には関係ないだろうけど」

「……」


えーと、何から言っていいのやら。
この数分のやりとりだけで、ツッコミどころ満載すぎてうまく言葉が出てこない。


的場さんも分かりやすく困惑している。
そりゃそうだ。
せっかく和気藹々としてた雰囲気を、先輩が簡単にぶち壊したのだから。

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