先輩、お久しぶりです

爪の先で薄い皮を真剣になって剥いている横顔を見ているだけで、笑いが込み上げてきそうだ。
それをぐっと我慢してやっと剥き終えたところで、次の指示をした。


「じゃあ、次は刻むので先輩は炒めてください。出来ます?」

「任せろ」


と自信ありげに言いつつ手つきはやっぱりぎこちない。
私は昂良先輩が炒めてくれている間にも、他の野菜を洗って千切りにし、それを炒めているフライパンにどんどん入れていった。


「端の方炒まってないですよ」

「姑か。これからだよ」


必死になって手伝ってくれる姿を見るとやっぱり可笑しくて、それがなんだか妙に可愛くて憎めなくなってくる。


そういえば学生時代、私と昂良先輩と美香と陵介先輩の4人でキャンプに行ったことがあった。その時はBBQを作る手伝いをしてくれたけど、案の定ぎこちない手捌きで全然進まなかったな。

あの頃からほとんど進歩してない気がするけど……。


「ふふっ」


そんなことをふと思い出して、とうとう笑ってしまった。
そして5年経っても変わってないこともあるんだと安心してしまう。


「何笑ってんだよ」

「いえ、別に」


難しい顔をしながら一生懸命フライパンで炒めてくれている姿にさらに笑いが込み上げてくる。
私が笑っているのを見た昂良先輩は怪訝な顔をしながらぎこちなく手を動かしていた。


「ありがとうごさいます。ここからは私が仕上げるんで先輩はゆっくりしててください」

「わかった」


どうやっても不器用な手つきに、逆に手際良く作ることが出来なくてキッチンから追い出した。
本人もやってみて理解したのか、素直に切り上げたようだ。


暇そうだけど、テレビでも見ててもらえると助かる。
こっちに興味を持たれるだけで、私も気になって料理に集中出来ないから。

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