先輩、お久しぶりです
それからしばらく気にせず集中して作っていると、いつのまにか真横に先輩が立っているのに気づいた。
「なんかいい匂いしてきたけど、結局何作ってんの?」
「お楽しみです」
「なるほど、自らハードル上げる気か」
「違いますよ。むしろ味の想像されると期待外れだった時がっかりするじゃないですか。だから出来上がるまでのお楽しみです」
「じゃあ楽しみにしとく」
「そうしてください」
口の端を上げて笑いながら戻っていった。
もう、ほんと落ち着かない。
なんとか作り終えて、ようやく食べられる準備ができると、ソファの前に置いているローテーブルへ料理を並べた。
テーブルの前に座った昂良先輩は出来上がった料理を見るなり驚いている。
「おぉ!すげーじゃん」
「でしょ」
分かりやすくドヤ顔してやった。
作ったのはベシャメルソースから手作りしたグラタンと、サラダとオニオンスープにお口直しのフルーツ。ご飯代わりのパンは柔らかめのフランスパンを買ってきていた。
短時間で作るにはこれが限界。
「じゃあ、いただきます」
「いただきます」
今さらだけど先輩が口にしてなんて言うかドキドキする。
料理を口に運びながら気になってチラチラ見てしまう私。
眉間に皺が寄ったり、一口で終えられたらどうしようと自信があっても多少不安になる。
「んっ!美味い!」
グラタンを口にした昂良先輩は、そう言葉にしてフゥフゥと熱さを冷ましつつひと口またひと口と美味しそうに食べ進んでいる。
私は心の中でぐっとガッツポーズを決めた。
良かった。お世辞として美味しいと言われるより、パクパク食べてくれるのが一番の褒め言葉だ。
やっぱり料理は一人で作って食べるより、誰かに食べてもらう方が嬉しく感じるものだと思ってしまう。