先輩、お久しぶりです

「ごちそうさま」

「え!?もう食べたんですか?」


お互い無言で食べ進めていたけれど、私が半分も食べ終わらないうちに昂良先輩はあっという間に完食してしまった。


「これくらい余裕。ていうかマジ美味かったわ。まだ食えそう」

「おかわりは無いですけど、お口に合って良かったです」


自信はあったけれどあらためて言われると恥ずかしくて照れてしまう。
もう少し多めに作ったほうがよかったかな?と、ふと目線をあげると昂良先輩は満足そうに頬杖をついてじっとこちらを見つめていた。


「欲しいもの考えとけよ」

「え……いいんですか?」

「そういう約束だろ」


美味しかったら欲しいものを買ってくれるという約束だった。
けれど本気にしていたわけじゃない。


「何でもいいぞ」

「本当に?」

「あぁ」

「えーと、じゃあ……考えておきます」


とは言ったものの、実はこれといって欲しい物はなかったりする。単に意地で賭けたようなものだったし。


美香とも約束したけど、あれはその場を盛り上げるための話題で本当に買ってもらうつもりはなかった。
だから欲しいものなんて特になかったりする。


むしろこんな手料理ひとつで何か買ってもらうとか、しかも何でもいいとか言う先輩……ちょっと甘くない?
いつもなら「甘えんな」とか言いそうなのに。


とりあえず食べ終わったお皿を洗おうとしたところで、先輩がまた腕まくりをして隣にやって来た。


「俺が洗うよ」

「いいですよ。これくらいならすぐ終わるんで」

「いいから、千春は休んでろ」

「でも……」


断ってもスポンジを奪い取られ、お皿を洗いだした。
やっぱり甘い。いや、甘やかされてるというか……。
どうしちゃったんだろう。

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