恋の♡魔法のチョコレート
「失礼しまぁーす」

静かに保健室のドアをを開け、ゆっくりと中へ入るも琴ちゃん先生はいなかった。

なんだ、ちょっとだけ緊張してたのに。

職員室の方かな?

どうしよっかなー…もう教室戻るのは嫌だし、このまま少しだけ眠らせてもらおうかな。

ぴちゃぴちゃと加湿器の音が聞こえるだけの空間で、なんとなく音を立てちゃいけないような気がしてこそっと布団に潜り込む形でベッドを借りようと思った。

カーテンの閉まる奥、ベッドのあるところにそっと近付きシャッと天井に設置されたリールを滑らすように開けた。

「!?」

加湿器の気配しか感じない保健室に自分以外に人がいるとは思わなかった。

てゆーかここで小鳩と会うとは思わなかった。

「え、あ、えっ!?」

おかげで変な声出ちゃったし、わっかりやすく戸惑っちゃったし。

「………保健室です、静かにしてください」

「…ご、めんっ」

一瞬私に向けた視線を逸らすように布団を被った。

…絶賛機嫌悪いな。

でも最近ここにも来てないって行ってた小鳩がいるってことは、体調よくないのかな。

「小鳩、…大丈夫?頭痛?」

「…健康だったらここへは来ませんよね」

「ですよね」

会いたいって思ってたはずなのにいざ会うと何話したらいいかわかんないな。

積もる悩みがあったのに、会ったからといって解決できるわけでもない。

いつだって聞きたいことは聞けないんだから。

「…何座ってるんですか」

「え?…あ、なんかつい!」

しまった、布団からかすかに見える小鳩の寝顔見てたらついそのままベッドの前にあった丸イスに座っちゃった。

何話したらいいかわかんないって思いながら、会えたことを嬉しく思う私もいて。

こんなこと小鳩に対して思ってるなんて恥ずかしくて言えないけど。

「…何か用ですか?」

「用って…私も頭痛くて保健室来たんだけど」

「隣のベッド空いてますよ」

「ですよね」

ぴちゃ、ぴちゃ、って音がしてる。

加湿器って案外うるさい。

布団に埋もれる小鳩を見て、ただ黙っていた。

「………何か用なんですか?」

そしたら布団から顔を出した小鳩にキッと睨まれた。
そらそうだ、ベッド借りに来たっていいながら何してるんだって話で。

「あ~えっと、もうすぐ調理実習じゃん?私まだ思い付かなくて、小鳩は何作るの?」

こんなどーでもいい話しか言い出せなかった。

しかも絶対今する話じゃない。

「………っ」

気のせいかな?今舌打ち聞こえなかった?

そうね、これはさすがに私が悪いよね。

「テーマはお餅だよね!やっぱチョコレート使うの?」

思い切って話を続行してみたけど、めちゃくちゃ興味なさそうで顔で一切の筋肉が止まっていた。

「……。」

その答えは返って来なかったし。

無視って…

いや、これもデフォルトなんだけど。

いっつも他人に無関心で、淡々として大声で叫んでるとこなんて見たことなくて、1ミリたりとも姿勢を崩さない。

それが小鳩だもん。
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