恋の♡魔法のチョコレート
バンッという大きな音と共にドアが閉められた。

あんなに丁寧に繊細なチョコレートを作る小鳩からは想像しにくい音だった。

「………。」

琴ちゃん先生がその閉められたドアを見ながらはぁっと息を吐いた。

「…なーんか最近私に冷たいんだよね」

まるで小鳩との関係を物語っているようでなんて返事をしたらいいかわからなかった。

普通の生徒と保健の先生で、そんな風に言うかな。

「あ、柳澤さん熱は?どうだった?」

くるっと振り返った琴ちゃん先生は明るい表情で、いつもの琴ちゃん先生だった。

「なかったです…全然」

どうせなら熱があってくれたらよかったのに。

そしたら熱のせいにしてこのまま…

「そっか、じゃあ…少しだけ休んでいく?」

いつもならやったーってその言葉だけで元気になれるのに、この空気の中にいることの方がしんどい…かもしれない。

「寒くない?ココアでも入れようか、冷えるようになったから体も追いついてないのかもしれないからね」

「…ありがとうございます」

なんとなく敬語で返しちゃった、琴ちゃん先生に初めてそんな言葉遣いしたかも。

先生だからあたりまえだけど、つい友達感覚で馴れ馴れしく話しちゃってたから。

「はい、どうぞ」

コトンっと机の上に湯気立つマグカップが置かれた。
甘くていい香りがスーッと流れてくる。

「柳澤さん甘いもの好きでしょ?」

「うん、…大好き」

その香りには勝てなくて、暖を取るようにマグカップを包み込んで両手で囲った。

同じようにココアの入ったマグカップ持った琴ちゃん先生がにこっと笑いながら机を挟んだ前のイスに腰かけた。

「チョコ研だもんね」

「…うん」

ココアをひとくち飲みながら、笑て見せた。愛想笑いみたいな。

私、なんて言えばいいのかな。

「小鳩くん…、チョコ研辞めちゃったんだよね」

「え、…うん」

静かにごくんとココアが喉を通ってく。

小鳩がチョコ研辞めたこと、琴ちゃん先生も知ってたんだ。

「急に辞めたって聞いたから心配してるの、柳澤さんは何か聞いてない?」

「うん、私は…何も」

私には教えてくれないし。

きっと琴ちゃん先生は小鳩本人からチョコ研をやめたことを聞いたんだと思った。

そんなニュアンスだった。

「そっか、…最近どうしてるか全然わからなくてね、前はそんなことなかったのに。高校生って難しいね」

笑ってるのにどことなく寂しそうで、ますます2人の関係がわからなくなる。

あんな小鳩だって見たことなかったけど、今目の前にいる琴ちゃん先生だって私たちに普段見せる琴ちゃん先生じゃない。

「ねぇ、琴ちゃん先生…」

「何?」

それは、踏み込んでもいいのかな。

「琴ちゃん先生と小鳩ってどんな関係なの?」

小鳩は嫌がるかもしれない、けど。
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