恋の♡魔法のチョコレート
パクッとかぶりついた小鳩が一瞬だけ止まった。

「チョコ研戻ってきてよ、小鳩いないと全然(はかど)らないの!私もそらぴょんも知識ないし、森中部長だって…」

自信がなくなってすぐ声が小さくなっちゃう。

きゅっとクレープを両手で握っちゃったから生クリームがはみ出しそうになった。

「私、小鳩のチョコレートが好き」

「………。」

「もっと見てみたいし、食べたい」

小鳩がクレープを持っていた手を静かに下ろした。

小さな丸テーブルの上、そっと手を置くように。

「…琴乃から何か聞いたんですか?」

「…琴乃って呼んでるんだ」

いつもはそんな呼び方してないのに。

だけどいつも何て呼んでたか思い出せない。

名前、呼んでなかったのかな…

「ううん、幼馴染ってことぐらいで何も聞いてないよ」

本当にそれしか聞いてないのは確かで、2人が昔はよく遊んでたってことぐらい。

「もうチョコレートは辞めました。だからチョコ研には戻りません」

「なんで!?だって好きなんでしょ、作るの!」

「…別に、作るのが好きだったわけじゃないです」

「じゃあ何が…っ」

「柳澤さんに関係ありますか?」

「…っ」

冷たい視線が飛んでくる。

寒気のするような目つきにぶるっと身震いをした。

「関係は…っ」


ない、けど。


そうやって言われたらないけど。


だって小鳩と琴ちゃん先生の関係に私は…!


「あるっ!」

ハッキリ大きな声で、小鳩の目を見ながら。

「あるよ!だって私小鳩の友達だもん!友達が悲しんでたら力になりたいって思うのが普通だもん!」

「………友達でしたっけ?」

「と、友達じゃん!だって同じ部活だったし、今も一緒に寄り道したりするの友達だからじゃん…っ」

そんな風に言われるのは想定内で、ちょっと傷付いたけどそんな深くはない大丈夫。

「そう…ですか…」

小鳩の表情が変わった。

冷たい眼差しがフッと消え、目を細めた。

「…友達ってそうゆうものなんですか」

「え、…うん。そりゃもちろん、友達が悲しそうにしてたらどうしたのかなって心配になるし」

「そうですか…」

否定しなかったのが気になったの。

友達は否定したのに、悲しんでることは否定しなかったの。

小鳩、今悲しんでる。

「でもそんな大した話はないですよ」

聞きたくて聞きたくて仕方なかった。

でも聞きたくなかった。

琴ちゃん先生のこと、聞いたら私はどうなるのかなって。

「僕の作るチョコレートが好きだって言われたから、…好きだったんです」

「それって…」

小鳩が目を伏せた。

私に話してくれるなら、ちゃんと受け止めたい。

ちゃんと塞がず聞こうって、静かに息を飲んだ。

「魔法のチョコレートの本当の意味、教えてあげましょうか?柳澤さんが思うほどいいものじゃないですよ」

そう言って私の目を見る小鳩の瞳の色はなくて、寂しい瞳だった。
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