恋の♡魔法のチョコレート
お店の隅っこ、私たちだけで誰もいない。

賑わっているショッピングモールなのに、ここだけは別の空間みたいだった。

小鳩がゆっくり口を開く、小さく、静かに、そぉっと。

「…昔です、まだ小学生の頃…告白したいけど勇気がないって悩んでる子がいました」

誰とは小鳩は言わなかったけどそれは琴ちゃん先生しかありえなくて。
なんで小鳩はそんな言い方したのかわからないけど、きっとそれは小鳩にとって消えない思い出だ。

「でも告白なんて本人以外できないですし、他人がどうこうできる問題でもありません。僕には何もできないって言ったんです。そしたら…」

どこまでも小鳩らしくて、それは変わらないと思った。
でもそれは小鳩が冷たいわけじゃない。

たぶん、素直なだけ。

「僕が作ったチョコレートはおいしいねって言ったんです」

“おいしいものね、小鳩くんの作るチョコレートは”

「じゃあ…僕にできることはチョコレート作るしかなくて。一生懸命作りました。またおいしいって言ってくれるようなチョコレートを」

それがチョコレートを作ってた理由なんだ。
今でもずっとチョコレートを作ってきたのは、琴ちゃん先生のため。

「すごく喜んでくれて、何度も褒めてくれて、勇気出した告白もうまくいっちゃって…笑って僕に言ったんです」

「…何て言ったの?」

結局誰が言い出したのかわからないままだたったのは誰も知らないんだと思ってたから。

気付いたらそんな風に呼ばれてただけで、誰も知らないんだって。

…知らない方がいいことだってあるよね。

「魔法みたいだねって」

小鳩が私の目を見た。

表情はなかった。

そしてまた俯いた、少しだけ。

「でも作らなきゃよかったです」

「…どうして?」

琴ちゃん先生がそう呼び出した魔法のチョコレート。

それは琴ちゃん先生の想いより小鳩の想いの方が強くて。


“魔法のチョコレート、どうしても欲しいの…!”

“そんなチョコレート知りませんけど”


大切だったんだ。

大事だったんだ。

大好きだったんだ。



「さぁ、どうしてでしょうね」



今だって好きなんだ、大好きなんだ…



そんな顔してた。
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