恋の♡魔法のチョコレート
引き留められたから、立ち止まってしまった。

その場でただ立っていることしかできないまま、なるべく邪魔にならないようにきゅっとなって気を付けをした。


小鳩が琴ちゃん先生の前に立つ。


2人が目を合わせて、向き合って。


それだけでドッドッと私の心臓の音が鳴り始める。

やばい、私の方が緊張してきた。

がんばってって言ったのに、私の方が…

張り詰めたこの空気に飲まれそう…!

「…琴乃…先生」

「琴乃でいいのに」

たどたどしく呼ぶその呼び方が落ち着かない。

「これ…」

手に持っていた紙袋から取り出した。

一生懸命作ったチョコレートを。

「え、これって…」

両手で口を押えた琴ちゃん先生の少し大きくなった瞳が滲んだ。

琴ちゃん先生に渡すために、小鳩が拘って、何度も作り直して、丁寧に仕上げた…


これ以上ないくらい想いのいーーーっぱい詰まったチョコレート。



きっと渾身の作品。



「私に…?」

「他に誰がいるの?」

「あ、そうだよね、そう…だよね」

くすっと笑う小鳩に琴ちゃん先生が恥ずかしそうに微笑んだ。

「キレイね、すごく」

ひとつひとつ手作業で形作って、重ね合わせて、壊れないように包み込み、煌びやかに艶めくピンク色で作ったバラの花束を模したチョコレートは純白を纏った琴ちゃん先生によく似合っていた。


チョコレートで花束を作っちゃうなんて、小鳩はやっぱり魔法が使えるみたい。


「…琴乃せんせっ」

「琴乃でいいのに、昔はそう呼んでた」

「それは…っ」

少しだけ小鳩の声が大きくなった。

「琴乃だろ!先に“小鳩くん”なんて言い出して!」

「だってそれは生徒だもん、そう呼ぶでしょ!」

「じゃあこっちだってそうだろ!勝手なこと言うなよ!」

2人の歴史には2人しか知らないことがあって、私には知り得ないことがたくさんある。

こんな風に男の子みたいに話す小鳩知らなかった。

「ごめん、…そうだよね、私が言い出したんだもんね」

“昔は敬語で話す子でもなかったのに高校入ったら急に話し出して距離感じちゃうし”

そっか、あれは寂しかったんだ。

だから自分で距離置いちゃったんだよね。
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