恋の♡魔法のチョコレート
「嘘だよ、嘘―!だって全然おいしくないのに!!」

「美味しくはないですけど」

「めっちゃハッキリ言うじゃん!しかも超真顔で!!」

「でも柳澤さんが作ってくれたので」

「え、なに…」


チョコレートの箱を閉じた。


紙袋に戻して…


今度は持っていた可愛い手提げ袋を私の前に出した。




「これは僕からです」




「…これ何?」

「この流れでわかりませんか、チョコレートですよ」

「わかるよ!わかるけど!そうじゃなくって、…なんでって」

しーんとした廊下、保健室から飛び出てやみくもに走ったから下駄箱だって通り過ぎちゃった。

「部長に聞いたんですけど、チョコレート研究会の伝統の話」


“だから1年間の活動の集大成として、自信あるチョコレートを作って、好きな人に渡す…これがチョコ研の伝統なの”


それでもわからなかった。

どうしてそれが私の前に差し出されてるのか、よくわからなくて。


だって小鳩が私にチョコレートを渡すなんてちっとも考えられなかったから。


「もう僕は辞めてしまいましたけど、また…作りたくなったので」

「…これ、本当に私に?」

「そうですよ、柳澤さんのために作りました」

「本当の本当に?」

「本当です、何回言えばっ…柳澤さん?」


涙が溢れる。


ポロポロと次から次へと流れ落ちる。


「だってそれは私じゃなくて、琴ちゃん先生にあげるんだって思ってたっ」


そんな可愛い手提げ袋で、きっとまた小鳩は丁寧に作ったんだろうなって、羨ましいなって、胸が苦しかった。


「琴乃先生には渡しませんよ。作ってもないですし、もう作らないって」

「だって小鳩っ、琴ちゃん先生のこと…っ」


“好きでした、琴乃のことが”


初めて小鳩の声で聞いた小鳩の気持ち、それは自分が思ってるより何倍も何百倍も重くて。

ズシンと鉛が落ちて来たみたいだった。

押し潰されてしまうかと思った。
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