恋の♡魔法のチョコレート
「小鳩、よく保健室来るの?」

「………。」

「もういいの?」

「……。」

「チョコ研入部希望です!」

「お断りします」

「あ、喋れるじゃん」

眉間にしわを寄せながらこっちを見た。だから笑顔で返してみた。

「何なんですか?」

「私ね、好きな人がいるの」

「全然興味ないんですけど」

そらぴょんのことを脈絡ないと言いながら、私も変わらないかもしれない。だってただ話したかっただけだから。

「わかってる!聞いてほしいの、私の独り言だと思って聞いて!」

はぁっと息を吐いた小鳩が水筒の蓋を開けた。そのままごくんっとお茶を飲んで、前を向いた。

「一目惚れだったんだけどね、…でも全然勇気がでなくて。話しかけるどころかすれ違うだけでもドキドキして、まだ話したこともないの」

小鳩はじっと前を見つめ、特に相槌なんてものもなかったけど静かに聞いてくれていた。

「だけど、それじゃ何も進めないよね」

そう思ってばかりの自分も嫌で、わかってるのにその繰り返しで。

いい加減うんざりだってしてるのに。

「それでね、噂だったんだけど小鳩の作るチョコレートには告白が成功するジンクスがあるって聞いたんだよね!」

それは私にとって、本当に魔法の言葉みたいだった。

聞いた瞬間、扉が開くみたいな。

その扉の中に一歩踏み込んでみようって思えたの。

「そんなの嘘ですよ、ただのチョコレートにそんな効果あるわけないです」

「そうかもしれないけど!でもそれで恋する女の子は勇気もらえるっていうか…背中押してもらえるっていうか、がんばろうって思えるの」


“これで…告白がんばれる”


昨日もらったっていってた女の子みたいに。

ちゃんと告えたのかな?どうだったんだろう…

「…だから僕に作れって言ってるんですか?」

「まぁ直接的な言い方をすれば」

「お断りします」

何度目かのこの言葉にはだんだん慣れて来た。

小鳩の口癖かな?ってぐらいよく聞いている。

「あはは、だよね!」

「何笑ってるんですか」

いつもより声の大きくなった小鳩が眉毛を吊り上げながらこっちを見た。私が笑って返すとは思わなかったらしい。

「それはそうだよなーって思って、だってこれは私の勝手だもん。小鳩が付き合うことじゃないし」

眉間にしわを寄せ、さらに眉毛を吊り上げて、はぁっとタメ息を吐いてまた正面を向いた。

「…じゃあ何で話したんですか?」

「なんだろうね?」

「は…、一体何なんですか?何が言いたいんですか!」

「小鳩に聞いてほしかっただけだよ」

チョコレートが欲しいのも本音だけど、これも本音。

これも私の勝手だけど。

「…僕は別に聞きたくもなかったですけど」
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