恋の♡魔法のチョコレート
「こーばとっ、お疲れ様!」

「…元気ですね、何かありました?」

「それはこっちのセリフだよ!」

一通り作業が終わり休憩に入った。

焼き上がるのを待つクッキー部隊と固まるのを待つチョコレート部隊、どっちもいい匂いが立ち込めて気分が上がる。

「小鳩ってさ、本当に作るのは好きだよね!」

イキイキとした表情はチョコレートを見つめている時にだけ見られる表情で、今日はいつになく楽しそうに見えた。

顔に楽しい!って書いてあった、あれは。

「…別に、そんなこともないですけど」

「あるよー!超ある!」

使い終わったボウルやヘラを流し台で洗う小鳩の隣で何か手伝おうかと手を出してみたけど、逆に邪魔しちゃいそうで何もできなかった。出した手を何もなかったように下ろした。

「ねぇ、作ってる時って何考えてるの?」

「何も考えてないです」

「食べてくれる人のこと考えたりするの?」

「考えませんよ」

キュッと蛇口のひねった。ジャージャーと出続けていた水が止まる。

「誰かのために作るのは嫌いなんで」

シンクに響く淡々とした声、どこか冷たく物寂しげに跳ね返って来る。

その真意はわからないけど。

「可愛げないな!」

「いりませんよ、可愛げなんて」

フンッと鼻を鳴らして、ちっとも可愛くないんだから。もう少し人に優しくっていうか、媚びる姿勢覚えたらチョコレートだって嬉しいと思うけど。

「それで喜ぶ人もいるのに」

「勝手に押し付けないでください、それは柳澤さんの意見ですよね」

そうだけど、そうなんだけど。

食べてくれる人がいるから、作ることに意味があるんじゃないのかな。


誰も必要としなかったらそれこそチョコレートが可哀想だし、小鳩だって悲しくない?


じゃあなんで小鳩はチョコレートを作ってるの?


どうしてチョコレートを作るのが好きなの?


私だったらやっぱり誰かのためって思っちゃうけどな。

お菓子何一つ作れないけど。

でもその方がおいしく作れる気がするんだよね…そんなこと思わなくても小鳩の作るお菓子はおいしいけどね。
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