恋の♡魔法のチョコレート
慌ただしく時間が過ぎていく、あんなに用意したクッキーは瞬く間になくなってキレイさっぱり何もなくなった。 

さすがにお客さんも帰って少し静かになったけど、森中部長はまだ忙しそうに動いていた。

「ちょっと小鳩くん見て来るね!第二次クッキー焼けてると思うから!」

本当よく働く人だなぁ…、ここはきっと後輩の私たちが行きます!って言うところなんだけど私もそらぴょんもついでに白沼先生もはいとしか言えなかった。

初めての文化祭に、すでに疲労困憊で一瞬の休憩をオアシスぐらいに感じてたから。

「じゃあ…僕は戻るからあとよろしくね」

いっちばん疲れた表情をした白沼先生がふぅと息を吐きながら小さな声で私たちに告げ多目的ホールから出て行った。

大丈夫かな、ただでさえ細いのにこの一瞬でさらに痩せた気がするんだけど。

「………。」

でも私も疲れたしね。

全く使ってなかったパイプ椅子にやっと座れた。
はぁ~~~っと長めの息を吐きながら、隣でそらぴょんもぐだーっとパイプ椅子に全体重を預けてる。

「あ、メリー!文化祭デートどだったの!?」

かと思えば一気にスイッチが入る、さすがそらぴょんいつもと変わらないテンションでキュルキュルとした瞳でこっちを見て来た。

「あ、…まぁ楽しかったよ?」

「え、そんな感じ?ちっとも伝わって来ないけど」

いや、楽しくなかったわけじゃないし。

本当に楽しいなとは思ってたし。

でも…

「あれ?もうチョコ研終わっちゃったの?」

ガランとしたチョコ研のお店に白衣姿でやって来た。

「琴ちゃん先生!来てくれたんだ!」

すぐにサッと立ち上がってお店の前に立った。

「ここだけ静かだなーって思ったらもう何もないんだね」

「そーなの~、ちょっと前に全部売り切れちゃったの!」

「そっか~、タイミング悪かったね」

「でも今小鳩がクッキー追加で焼いてるからちょっと待ったら来ると思う!」

琴ちゃん先生がチラッと何も置かれてない台の上を見た。
そこにあるのはポップだけ、私が描いた商品ポップ。

「チョコレートはもう作ってないの?」

「うん、チョコレートは…」

実は私も最初にここへ来た時確認した。

忙しくて聞いてられなかったけど、何も置かれていないポップの前が気になって少しがっかりした気持ちになっていた。

“魔法のチョコレート”

クッキーより先に売り切れちゃったんだと思う。

欲しかったのに、私も。

「そうなんだ~、食べたかったなぁ小鳩くんのチョコレート」

「人気過ぎて全然食べられないよ~っ」

琴ちゃん先生も残念そうに笑ってた。

そうだよね、あんなストイックにチョコレート作ってる小鳩のチョコレート食べたかったよね。

「おいしいものね、小鳩くんの作るチョコレートは」

「え、琴ちゃん先生食べたことあるの?」

「うん、あるよ。告白が上手くいく魔法のチョコレート、でしょ?」

髪を掻き、耳にかけながらにこっと微笑んだ。

あのジンクスは琴ちゃん先生にも届いてるんだ。
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