恋の♡魔法のチョコレート
「クッキー焼き上がったよ~!」

森中部長と小鳩が箱に入れたクッキーを抱えてやって来た。
箱の中のクッキーはすでに簡易的にラッピングされ、昨日準備したみたくリボンが付いてるとかじゃないけど透明のビニールに包まれていた。

「森中部長っ、すみません!私たちだけ休んじゃってて!」

「いーの、いーの!てゆーかほとんど小鳩くんがやってくれたんだけど」

小鳩がとんっとクッキーの入った箱を台の上に置いた。さすが焼き立ていい匂いがしてる。

「さぁ、あと少し!がんばろ!」

誰より働いてるのに誰より明るい声で私たちにグッとガッツポーズを見せながら呼び掛ける森中部長は本当にこのチョコレート研究会のことが好きなんだと思った。

“あの人、お菓子作れませんからね。でも好きなんですって、この場所が”

そうだよね、好き…

なんだよね。

きっと小鳩も、好きなんだと思う。

じゃあ何で辞めちゃうのかな。

何かあったのかな…?

森中部長と、何かあったの…?

「柳澤さん?」

「あ、はい!え、何!?琴ちゃん先生っ」

「私もそのクッキーもらってもいいかな?」

「もちろん!絶対クッキーもおいしいよ!!」

香りに誘われてかさっきまで静かだったチョコ研の模擬店の前にはあっという間に人が集まって来て、すぐにあの慌ただしさが返って来た。

バタバタと他の文化祭を楽しむ時間はあまりなかったけど、この時間がすごく充実してて少なくなっていくクッキーを見ては自然と笑みがこぼれた。

私だけじゃなく、そらぴょんも森中部長も、小鳩も…

笑ってたのかな。

わからないな、顔が見られなかったから。

背の高い小鳩と目を合わすには顔を上げなきゃいけない。

だからよかったかもしれない、見なくて済んだから。
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