恋の♡魔法のチョコレート
くるっと小鳩が後ろを向いた。

それさえにもドキッとして、ドキドキと鳴る心臓を右手でさすってきゅっと制服を握りしめた。

「柳澤さん、これ…どうぞ」

次に振り返った時には何かを持っていた。後ろの棚の上に置いてあったスクールバッグから取り出した、包装されたひとつの箱。

「……何、これ?」

「チョコレートです」

「チョコレート?」

差し出された箱を手に取った。

濃い青色の包装紙は無地で何も描かれてないシンプルなものだったけど、丁寧に包まれそれは小鳩がやったものだとすぐにわかった。

「え、これって…っ」

「あ、柳澤さん的にはこうですかね」

「…。」

「“魔法のチョコレート”です」

にこっと微笑んで、私の瞳を見た。

急に胸が熱くなった。

「な、なんで…?」

「なんでって欲しかったんですよね?」

「う、うん…ずっと欲しかったけど」

欲しかった、けど。

これが欲しくてずっと必死になって来たんだけど…。

「じゃあよかったです」

「わざわざ作って…くれたの?」

「まぁ…一応そうなりますかね。文化祭であれだけ売り出してますし、特にレア感なんてないとは思いますけど」

小鳩にとっては意味なんてないのはわかってる。

最初から小鳩にとってはそうだったから。

「でも柳澤さんも欲しがってたんで、これだけ準備したり大変だったのにさすがに可哀想かと思ったんで」

小鳩ってそんな表情したっけ?

そんなに柔らかく話す人だったっけ?

また少し小鳩に近付いた気がするのに、なんでかな胸が苦しいの。

「…昨日は無理矢理押し付けちゃって、すみませんでした」

「それは…っ、私が何でも言う事聞くって約束だったし」

「だからそれは柳澤さんのためのチョコレートです」

しーんとした家庭科室に小鳩の静かな声が響く。

チョコレートはもう作らないって言った小鳩が最後に作ってくれたチョコレート、私のために。

ずっとずっと追いかけ続けて来た小鳩結都が作ったチョコレート。


私のための…


私のチョコレート…


なんで瞳に熱を持ってるんだろう?


どうして今泣きそうなんだろう?


「これで告白するんですよね?」


なんでこんなに胸が苦しいんだろう?


「がんばってください」
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