結ばれてはいけない御曹司に一途な想いを貫かれ、秘密のベビーごと溺愛されています
彼だって、娘が生まれた瞬間を見たかったはずだ。赤ちゃんの頃の小さくて愛らしい杏花をその手に抱きたかったのでは?

「……杏花の父親は……」

口にするのが怖い。

妊娠が発覚して三年、頑なに口を閉ざし、墓まで持っていく覚悟で守り続けた秘密だ。

ここで認めてはもう後戻りはできなくなる。

「菫花」

優しい声がなだめるように頭上から降り注いだ。

目線を上げると、端正な顔が近づいてきて、私の頬に温かなキスをもたらした。

「答えが聞ける日を待っている。だからせめてそれまでの間、君たちのそばにいさせてくれ」

私がなにを言わなくとも、答えは明白なのだろう。

杏花は自分の子で間違いないと、理仁さんは確信している。

私の回答を先延ばしにしてくれただけだ。

こくりと頷くと、彼の逞しい手が伸びてきて、私の体を包み込んだ。

温かくて……懐かしい。私はかつて、このぬくもりをひとり占めして、たっぷりの愛に溺れながら杏花をこの身に宿したんだ。

――まだ愛していると、言ってしまいたい……。

理仁さんも同じ気持ちを抱いてくれているのだろうか。

そうであることを願いながらも、その日はお互いの体温を確かめ合うだけで、それ以上は触れられなかった。



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