結ばれてはいけない御曹司に一途な想いを貫かれ、秘密のベビーごと溺愛されています
ぶんぶんと首を横に振って身じろぐ。恐怖に怯えている杏花のもとへ、早く行ってあげなければ。

今もドアの向こうから「ママー!」と私を呼ぶ悲痛な声が聞こえてくる。

「ガキが心配なら、さっさと脱いで終わらせれば?」

杏花が心配で気が気じゃない私を嘲笑うかのように、オーナーは悪趣味に唇を歪めた。私のシャツの襟もとに手をかけ、力を込め引き裂こうとする。

予期せず理仁さんとの出会いを思い返す。

――『後学にまずひとつ覚えておいてくれ』――

――『名前も知らない男を部屋に入れてはいけない』――

誰もが理仁さんのように善人とは限らない。あれから三年も経つというのに、まだ私は学び足りていなかったようだ。

他人を疑いもせず、部屋に入れてしまった。その上、杏花まで危険にさらして。

――理仁さん、ごめんなさい。

ドアの外から響き続ける泣き声に涙がにじむ。と同時に、胸もとでビッと布の裂ける音がした。



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