結ばれてはいけない御曹司に一途な想いを貫かれ、秘密のベビーごと溺愛されています
そんなことを続けて、チップが尽きてしまったところで眼鏡の紳士がしたり顔で声をかけてきた。

Nice try.(よくがんばったね)

彼の手もとにはさっきよりも増えたチップ。どうやら私の勝ちだ、と言いたいらしい。つまり挑発だ。

『もうひと勝負――』

私が現金をテーブルに置こうとしたところで、背後から肩を叩かれた。

『もうその辺にしておきなさい』

驚いて振り向くと、そこには光沢のあるブラックスーツを纏った秀麗な男性が立っていた。

歳は私より少し上だろう。背が高くすらっとしていて、艶やかな黒髪をサイドに分けて流している。

涼やかな目もとにすっと通った鼻筋、そして上品な唇。繊細な顔立ちは私と同じ日本人、あるいはアジア系だ。

男性は私の隣に座ると、私が失った以上の金額をチップに替えた。

彼がわずかに首を傾げ、こちらを覗き込んでくる。不敵な微笑が目に飛び込んできて、胸をぎゅっと掴まれた気がした。

『君のファイナルベットだ。どこに賭ける?』

『私……?』

男性はチップの山を私の手もとに寄せる。

『ど、どうして私なんですか? 無理です、こんな大金……』

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