結ばれてはいけない御曹司に一途な想いを貫かれ、秘密のベビーごと溺愛されています
『なら、決めてくれ。赤か黒、どちらに賭ける?』

ディーラーがルーレットにボールを回し入れる。残された時間は長くない。男性は眼差しで私を急かす。

『じゃあ……赤で』

『このチップを、すべて赤に』

彼の宣言と同時に、ディーラーがタイムアップのベルを鳴らした。

ボールは速度を落とし、カラカラと音を立てながら数字のポケットに吸い込まれる。

落ちた場所は――0。赤も黒も属さない場所だ。

「うそ……」

当たったのは――眼鏡の紳士。自身の前に積み上がったチップを見て、彼は「Yes……!」と歓喜した。

冷静になって、すうっと背筋が冷えた。外してしまった申し訳なさと、気づかないうちに熱くなっていた自分に。

――私、いったいいくらつぎ込もうとしてた……?

『残念だ。終わりにしよう』

彼が肩をすくめ席を立った。くいっと指先で招かれ、困惑するまま彼のあとについてカジノを出る。

デッキに出ると、涼やかな夜風が吹き抜けていった。三月の夜の海、温暖な地中海とはいえ、少し冷える。

すかさず彼が上着を脱ぎ、私の肩にかけてくれた。エスコートに慣れた人だ。

< 12 / 182 >

この作品をシェア

pagetop