結ばれてはいけない御曹司に一途な想いを貫かれ、秘密のベビーごと溺愛されています
涼やかな響きのその名を反芻し、自分の中に刻み込む。

「私は、綿来(わたらい)菫花です」

「そうか。じゃあ、菫花。後学にまずひとつ覚えておいてくれ」

彼――理仁さんは私が勧めたソファに座ると、腕を組んで難しい顔をした。

「名前も知らない男を部屋に入れてはいけない」

当然のようで失念していた事実を突きつけられ、ルームサービスを調べようとしていた手が止まる。

「それから、女性がひとりで泊まっていると明かすのは危険だ。俺が悪い人間なら、君はもう襲われているよ」

つい先ほど、家族やパートナーは?と尋ねられ、『ひとり』と答えてしまったことを思い出す。

確かにと納得し、ソファにすとんと腰を落とした。

助けてもらったとはいえ、見ず知らずの男性を自室に招き、あまつさえ女性のひとり旅だと宣言して。襲ってくれと言っているようなものだ。

「……ごめんなさい」

「本当に、社会勉強をした方がよさそうだ」

理仁さんが呆れたように息をつく。

だが、それを教えてくれたということは、彼は善良な人なのだろう。

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