結ばれてはいけない御曹司に一途な想いを貫かれ、秘密のベビーごと溺愛されています
「騙してなんかいません。あなたと違って、私は嘘はつきませんから」

「さっき兄のことでついた嘘を、まだ根に持ってる?」

涼しい目で彼は指先を頬に滑らせた。淡々とした声色は感情を隠しているかのよう。隠されればされるほど、彼が今なにを考えているのか気になってたまらない。

「これからあなたが嘘をつかないでくれるなら、水に流します。私もすべて正直にお話しします」

「じゃあ……試しに教えてくれ。これまで何人の男と、こういうことをした?」

彼の顔が近づいてきて、目の前で止まる。もしかして私をからかっているのかしら? 疑いながらも、頬がふんわりと熱を増す。

「……一度もありません。本当ですよ?」

自分の吐息が彼の鼻筋にかかっていると思うと恥ずかしい。

嫌がられていないかしら、こんな近くで見つめられて、かわいくないと思われていたらどうしよう。

これまで自分の容姿などたいして気にとめていなかった私だけれど、初めて他人からの評価が気になった。

「……確かめる」

彼がそうささやき、私の唇に自身のものを寄せる。温かく柔らかな感触がふわりと触れ、私は誘われるがままに目を閉じた。

生まれて初めてのキス。

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