結ばれてはいけない御曹司に一途な想いを貫かれ、秘密のベビーごと溺愛されています
安物のジーンズとよれたシャツ。

せめてシャツに糊が利いていればそれなりに見えたものを、昨夜は疲れきっていて、アイロンをかける余裕もなかった。

それだけじゃない。なんのお手入れもせず、ぱさついた髪。娘と一緒に入るお風呂は、のんびりヘアエステやトリートメントなんてしていられないから、まさに烏の行水。

短く切り揃えた爪は安全第一。ネイルケアもしていない。

仕事と育児をこなすだけでも大変なのに、おしゃれに気を遣う余裕などない。お金もない。

今は、毎日生きていくだけで必死になっている。

普通の夫婦がふたりですることをひとりでこなしているのだから当然だ。

「見ての通りです。私はもう、あなたの隣を歩くような女じゃありません」

にっこりと微笑んで訴えかける。

それでも笑顔だけは絶やさずに生きてきた。

箱入り娘でろくに働いた経験のない私の強みといえば、笑顔しかない。

同時に、高級な服を着ていなくても笑顔でさえいれば、娘は笑ってくれるのだと気づいた。

着飾る必要なんてない。おしゃれをしなくても、娘が元気ならそれで充分だ。

「お引き取り願えますか?」

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