結ばれてはいけない御曹司に一途な想いを貫かれ、秘密のベビーごと溺愛されています
もしも初めての国へ行くとしたら、父はガイドを雇うだろう。

言語だけではない、その国の風習や、足を踏み入れてはならない危険な場所など、現地の人間でなければ把握しきれないことがたくさんあるから。

「……理仁さんは、イタリアに詳しいのですか?」

「詳しいというほどじゃないが、しばらく欧州で暮らしている分、慣れてはいるよ。イタリアも何度か来たことがあるし、簡単なイタリア語なら話せる」

まるでそうしろとでも言うように、理仁さんが目で煽ってくるので、素直に従うことにした。

「……理仁さんの予定が空いているなら、街を案内してもらえませんか? あなたと一緒なら心強いです」

「オーケー。軽く食事を済ませたら、降りる準備をしよう」

快諾してもらえたことが嬉しくて、ふんわりと頬が緩んだ。

今日も一日、理仁さんをひとり占めできる。イタリアの港町を散策なんて、これ以上素敵なデートなどないだろう。

こんな経験ができるのも、両親が背中を押してくれたおかげ――ひとり旅を取り計らってくれた彼らに心から感謝した。



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