結ばれてはいけない御曹司に一途な想いを貫かれ、秘密のベビーごと溺愛されています
男性がもの言いたげな表情で目を細める。口を開こうとした、そのとき。

「パパ!」

あどけない声が室内に響き渡り、私たちは揃って振り向いた。

お昼寝をしていた杏花がいつの間にか目を覚まし、男性に手を伸ばしながらそう言ったのだ。

「杏花……!」

思わず私は声をあげる。

「……杏花って言うのか」

男性の目もとが緩まり、優しい眼差しになった。私がよく知る彼の顔だ。

三年以上も前の記憶がフラッシュバックして、胸がぎゅっと締め付けられる。

杏花は布団から出ると、とたとたとこちらに歩いてきた。私を通り越し、反対側に座る彼のもとへ歩いていく。

「初めまして杏花。こっちにおいで」

甘い響きに吸い寄せられるように、杏花は彼のもとへ向かい、膝にタッチする。

彼は杏花のまだふにゃふにゃで頼りない小さな体をそっと支えながら、私に穏やかな笑みを投げかけた。

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