結ばれてはいけない御曹司に一途な想いを貫かれ、秘密のベビーごと溺愛されています
「さすがに難しすぎてわからなかったと思います。お昼寝明けでぼんやりしてましたし」

「ならいいんだが。これからは気をつけないとな」

そう自身に言い聞かせ、バックミラーで杏花を確認した。

杏花はまったく聞こえていない様子で、窓の外の景色を眺めている。

「……理仁さんは、今は日本で勤務しているんですよね?」

杏花が外の景色に夢中になっているので、その間に私は気になっていたことを訪ねた。

私たちが出会った頃は、イギリスで働いていたようだけれど……。

「ああ。一年半くらい前から霞が関にある財務省本省で働いている」

「今はどんなお仕事をされているんですか?」

「……菫花の聞きたがりが始まったな」

にやりと笑みを深めた理仁さんに、私はデリカシーが足りなかっただろうかと慌てる。

「ごめんなさい、言いたくないことでしたら――」

「かまわないよ。ただ、少し懐かしくなっただけだ。出会ったときも、菫花は俺を質問攻めにしていた」

あのときは、社会人の先輩である彼に興味津々だった上、船の中で同世代の日本人と会えたことが嬉しくて、ついいろいろと尋ねてしまった。

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