結ばれてはいけない御曹司に一途な想いを貫かれ、秘密のベビーごと溺愛されています
「それで菫花はずっと杏花の前で笑顔なんだな」

理仁さんはそう納得しながらも複雑そうな表情をしている。

「? それは、どういう――」

「いや」

理仁さんが目を逸らすようにフロントガラスの奥を見つめる。引っかかりを覚えながらも、私は話を続けた。

「……おしゃべりも上手で、いつも先生に褒めてもらえるんですよ。十二月生まれなので、他の子より半年くらい成長が遅いはずなのに、とっても上手に喋れるねって」

「それはすごいな」

理仁さんの目が緩む。

「先生の話をきちんと聞くことができるし、給食も残さないし、とってもいい子にしているって……」

ふと保育園の先生の言葉が頭をよぎる。

『片親だと、やんちゃなお子さんも多いんですけどね。杏花ちゃんはとってもお利口で。きっとお母さまが普段からきちんと躾けてくださってるおかげなんでしょうね』

複雑な気持ちになったことを覚えている。褒められた喜びと、片親の子とくくられてしまった虚しさと。

自分が認められたと同時に、どう頑張っても手の届かない幸せがあるような気がした。

予期せず涙がにじみそうになり、ごくんと飲み込む。

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