結ばれてはいけない御曹司に一途な想いを貫かれ、秘密のベビーごと溺愛されています
駆け回る私たちのうしろを、理仁さんはのんびりと追いかけてくる。

「ママ、あえ! ももか、のいたい!」

杏花が興味を示したのは、一番過激なジェットコースターだ。もちろん、身長制限があって杏花は乗れない。

「これはお兄ちゃんお姉ちゃんが乗るものよ」

「のゆ!」

「杏花は乗れないの」

「のゆのー!!」

駄々をこね始めた杏花にふうと短く息をつく。

杏花はまだ二歳半。当然、言ったことを全部理解してくれるわけではない。自己主張の激しい『イヤイヤ期』と呼ばれる魔のお年頃だ。

私は笑顔で「あっちに汽車があるのよ。すっごく楽しいの」と説得を試みるが、杏花は聞く耳を持たずイヤイヤしてばかり。

そんなことをしている間に、うしろから理仁さんが追いついてくる。

「ごめんなさい、杏花がぐずりだしちゃって」

なんだか悪い気がして、理仁さんに謝ると。

「どうして菫花が謝るんだ?」

冷静に聞き返され、ハッとさせられる。杏花が誰かに迷惑をかけたら、母親である私が謝る――他人に対してはそれが当たり前だけれど……。

――理仁さんは、杏花は杏花、私は私として見ているのね。

その視点がまるで家族そのもので、なんだか嬉しかった。

「菫花、これちょっと頼む」

そう言って理仁さんは私の横にベビーカーを置くと、杏花の前にしゃがみ込んだ。

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