星のゆくすえ

黄金の正体

リセラドはある岩壁の前にいた。彼をとり囲むのは、貴族然とした中肉中背の男と、人相の悪い男たちだ。

「シスターは無事なんだろうな?」
「無事だとも、君が話のわかる男ならば」

貴族然とした男がそう言うと、リセラドは小刀を取りだし自分の左掌を切りつけた。その手を岩壁に押しつけると、ある紋様が浮かびあがる。

「なんだぁこりゃぁ…!?」
「ただの岩じゃなかったのかよ!?」

人相の悪い男たちが次々とどよめくも、貴族然とした男は、その白い顔に男の表情も浮かべない。

「フィルテリウス家の紋章…ここだったのか」

ただ、リセラドに聞こえるか聞こえないかの声量でぽつりと呟いた。
リセラドが手を離すと、ちょうど人が一人通れるほどの大きさまで広がった。それからガラガラと音をたてて崩れると、彼らの眼前に道ができた。
リセラドは恐れることなく道を進む。男たちは恐る恐るそれに続き、最後に貴族然とした男が続いた。


マーシャは小男に連れられ谷底を歩いていた。足首の縄は小男によりすでに解かれている。あれだけ四苦八苦していたというのにあっさり解かれて、マーシャは唖然としてしまった。
そんなマーシャを気遣うことなく、小男はマーシャを連れて地下牢から出た。いきなり日の当たる場所に出て目が眩んだが、慣れてくると草も生えない岩棚だらけの谷底だと気づき、再び唖然とした。

「来い、たぶんもう始まってる」
「何がです?」
「[採掘]さ」

小男はそれだけ言うと、さっさと歩きだしてしまった。マーシャは慌てて遅れないようについていく。
しばらく歩いて、小男は目当ての場所を見つけたらしく駆けだした。マーシャも同じく走ったが、すぐに息がきれて金髪が額や頬に張りついてしまい、不快な気分になった。

「ああ、ここだ」

その岩壁は奇妙なことに、人が一人通れるくらいの道ができていた。小男は怯えることなく足を踏みいれる。
マーシャはさすがに戸惑ったが、小男の「“黄金の子”はここにいるぞ」の一声に、恐る恐る足を進めた。

マーシャは小男の背を見失わないようについていくが、どうも一本道のようで迷わずについていけた。上がったり下がったり、右や左に曲がったりするのにはへとへとになったが。
しかし、ずっと暗がりだった道の先に、光の点が見えてきた。マーシャは感覚で、あれが目的地だと悟った。
進むにつれて、光はどんどん強くなる。やがてそれは金色で、開け放たれた扉から漏れているのだとわかった。

二人が扉の中に入ると、事態はとんでもない状況になっているのが一目で理解できた。
部屋の中心には、黄金の像が二つある。女性と、男性の像のようだ。男性はその手で女性の頬に触れているが、女性は両手を下げたままだ。
その周囲には、黄金の家具だの食器だの武器だの、とにかく全てが黄金だった。厳つい男たちがそれらに触れた状態で黄金になって固まっている。
しかしそうでない者がいた。

「き、聞いてないぞ! 触れたら自分も黄金になるだなんて…!」

美しい刺繍が施された上着と、クラバットを身につけた、貴族然とした男。

「悪魔と契約して得た力です。この程度のことは予想がついたでしょう」

黒髪と、黄金に照らされ深い緑を見せる瞳の男。

「騎士様!」

マーシャの叫びに、男たちの視線が彼女に向かう。マーシャは真っ直ぐにリセラドの元に向かうと、彼に抱きついた。リセラドは彼女を抱きとめて、「ご無事で…!」と小さく呟いた。

「ごめんなさい、私が軽率な真似をしたから…!」
「いいえ、シスター、貴女が無事で良かった」

貴族然とした男はその隙をついて逃げだした。小男はさっと避けると二人に声をかける。

「あー…お二人さん、お熱いのは良いんだが、後にせんかね?」
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