謎多き旦那様の嘘、または秘密

前の記憶は蓋がきつくしまった瓶みたいに全く戻らない。

でもどこか、それでも良いと思う自分がいる。

旦那様との生活は何一つ不自由がなく、寧ろ旦那様の方が私との生活に不自由さを感じていそうだ。

外には一度も出ていない。

雨の日も晴れの日も霙が降っていても、一度も。

「旦那様はお出かけしないんですか?」
「どこか行きたいところがあるのか」

こういう会話も慣れた。

いつの間にか私の話題に変わっている。

「私は特にないです。元々出不精だったんですかね?」

知っているかどうかも分からないが、尋ねてみる。

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