謎多き旦那様の嘘、または秘密

ただ何か、どこかひっかかる。
その記憶を引っ張り出してはいけない、ような。

「無理に思い出さなくて良い」

旦那様の声に、現実へ帰る。

「あと僕は、君が勝手に出歩いたり怪我をこれ以上増やさなければ怒らない」

静かに言われた。温かくも冷たくもない声。

どこかで聴いた気がする。

立ち上がろうとする旦那様の黒い袖を掴む。

「どこへ行くの」
「仕事へ」
「お仕事は何を?」
「君の仕事には縁遠いものを」

話している間にするりと手をすり抜けて行ってしまう。
部屋を出ていき、扉が閉まった。

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