謎多き旦那様の嘘、または秘密
無理に思い出さなくて良いと言われた。
それに救われた気がする。
仕事……私は何の仕事をしていたんだろう。
部屋の中を見回す。小さなラックに小説が数冊。帯にベストセラーと書かれている。まるで、普段小説を全然読まない人が、ベストセラー本を集めたみたいだ。
その上に小さな花瓶。切り花が生けられている。花の名前は全く分からない。
手を伸ばして、つん、と突いてみる。当たり前だけど何の反応もない。
バスに乗っていたなら、どこへ向かう途中だったのだろう。
腕の包帯をみる。足も折れているみたいだけれど、命が助かっただけ良かったと思う。