謎多き旦那様の嘘、または秘密

「あ、おかえりなさい」
「え」
「仕事から、おかえりなさい?」

狐面の旦那様は固まったまま動かない。

何か違っただろうか。とりあえずレンゲを持つ。

「ただいま、帰りました」
「ふふ、どうして敬語?」

思わず笑うと、旦那様は小さく肩を竦めた。

「君の真似だ」

声が少し笑っている。

それが嬉しくて私も笑った。

ずっとこうして来たんだと思う。
夫婦だから当たり前だけれど、こうして笑い合うのが奇跡みたいに嬉しい。

「不思議」
「何が」
「こんなに嬉しいのに、なんだか悲しくて」

旦那様がこちらを見る。

< 9 / 42 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop