婚約破棄されたい公爵令息の心の声は、とても優しい人でした
(……さすがにやりすぎただろうか。レイナが呆れるのも無理はない。だが……これも全てはレイナから婚約破棄してもらう為――)
「ヴィンセント様、お怪我はありませんでしたか?」
「え……?」
私の問いに、ヴィンセント様はキョトンとして目を丸くさせた。
「階段から転げ落ちるなんて大事です。頭は打ってませんか? 痛い所はありませんか? 気分が悪いとかは?」
「えっと……う、うん! 大丈夫! この通り全然平気だよ!」
ヴィンセント様は戸惑いを見せながらも、元気に大きく手をブンブンと振ってみせる姿にホッと胸を撫でおろす。
彼のこういう所は本当に悪い癖だと思う。
自分の顔にわざと傷を付けたり、わざと階段から転げ落ちたり……目的の為なら、自分の事は二の次に考えてしまう人なのだ。
もう少し自分の事を大事にしてほしいと私は思っているのだけど。
(レイナは本当に優しいな……)
「……!」
私を見つめるヴィンセント様の瞳が急に大人びたので、なんだか恥ずかしくて思わず顔を伏せてしまった。
そんな風に言ってくれるのはヴィンセント様くらいじゃないだろうか。
でも私は知っている。
本当に優しいのは――。
「やだぁ……何あの恰好? 誰あれ?」
「しっ! ヴィンセント様よ! 公爵令息の……ほら、頭がちょっとおかしくなったっていう……あまり関わらない方がいいわ」
「まあ! あの方が!? じゃあその隣の令嬢は誰?」
「どうやら婚約者らしいわよ? あんな男と婚約だなんて、恥ずかしくないのかしら?」
「どうせお金が目当てでしょ? 大金欲しさに仕方なくって感じじゃない?」
「まあ、なんて卑しい令嬢なのかしら」
先程までは王太子殿下とクリスティーヌ様の婚約破棄劇で持ちきりだった話題が、あっという間に私とヴィンセント様の話に上書きされていく。
「ヴィンセント様、お怪我はありませんでしたか?」
「え……?」
私の問いに、ヴィンセント様はキョトンとして目を丸くさせた。
「階段から転げ落ちるなんて大事です。頭は打ってませんか? 痛い所はありませんか? 気分が悪いとかは?」
「えっと……う、うん! 大丈夫! この通り全然平気だよ!」
ヴィンセント様は戸惑いを見せながらも、元気に大きく手をブンブンと振ってみせる姿にホッと胸を撫でおろす。
彼のこういう所は本当に悪い癖だと思う。
自分の顔にわざと傷を付けたり、わざと階段から転げ落ちたり……目的の為なら、自分の事は二の次に考えてしまう人なのだ。
もう少し自分の事を大事にしてほしいと私は思っているのだけど。
(レイナは本当に優しいな……)
「……!」
私を見つめるヴィンセント様の瞳が急に大人びたので、なんだか恥ずかしくて思わず顔を伏せてしまった。
そんな風に言ってくれるのはヴィンセント様くらいじゃないだろうか。
でも私は知っている。
本当に優しいのは――。
「やだぁ……何あの恰好? 誰あれ?」
「しっ! ヴィンセント様よ! 公爵令息の……ほら、頭がちょっとおかしくなったっていう……あまり関わらない方がいいわ」
「まあ! あの方が!? じゃあその隣の令嬢は誰?」
「どうやら婚約者らしいわよ? あんな男と婚約だなんて、恥ずかしくないのかしら?」
「どうせお金が目当てでしょ? 大金欲しさに仕方なくって感じじゃない?」
「まあ、なんて卑しい令嬢なのかしら」
先程までは王太子殿下とクリスティーヌ様の婚約破棄劇で持ちきりだった話題が、あっという間に私とヴィンセント様の話に上書きされていく。