婚約破棄されたい公爵令息の心の声は、とても優しい人でした
女性からの好意に困っている事を同じ学園に通う友人に相談すると、何故か軽蔑の眼差しを向けられた。
「お前なあ。その顔で優しくされたら、どんな地味な女の子でも勘違いするに決まってるだろうが。自分の顔、鏡でちゃんと見た事あるか?」
「あるに決まっているだろうが」
「はぁーーーー。やだねぇ。これだから天然たらし君は……。あんまり女性を泣かすなよ? 女性の嫉妬は怖いからなぁ」
ニヤニヤと面白そうに笑う友人を冷たく睨み付ければ、「そうそう! そういう視線を女子に向ければいいんじゃねえの?」と軽く言われた。
だが、俺にとってはそんな簡単な事ではなかった。
突き放す様な態度をとって相手を傷付ける事も、優しくして顔を赤らめ嬉しそうにする姿も……俺にとってはどちらも苦痛な事だった。
「いっそのこと誰かと付き合ってみればいいんじゃね?」
再び軽口を叩く友人の言葉は無視する。
そんな事、出来る筈が無い。それだけは絶対に嫌だ。
女性に優しくする一方で、俺は女性に対して激しい嫌悪感を抱く様になっていた。
俺が女性を拒めない事を知ってか、以前にも増して俺の周りには多くの女性が集まってくるようになった。
告白されずとも、相手が自分に好意を寄せている事は視線や態度からも明白だった。
体を寄せて熱のある視線を向けられ、ベタベタと好き勝手に触れてくる。その手を振りほどく事も出来ず、作り物の笑顔を貼り付けてひたすら耐える日々。
中には変な薬を盛られて一方的に押し倒され既成事実を作らされそうになった事もあった。それも一回や二回には留まらず。告白を断った女性に逆恨みされ、身の危険を感じる事も。
女性に対する不快感は日を追うごとに膨れ上がった。
媚びを売る様に声を掛けられる事も、必要以上に触れられる事も、熱い視線を向けられる事も……何もかもにうんざりする。
それなのに、彼女達を邪険に扱う事も出来なかった。
女性には優しくしなければいけない。
傷付ける様な事をしてはいけない。
彼女達は、儚く脆い存在なのだから――。