婚約破棄されたい公爵令息の心の声は、とても優しい人でした
 学園から帰ってきた俺は、自室へ直行するとそのままベッドに倒れ込んだ。
 
「疲れたな……」

 講義が終わる度、入れ替わり立ち代わりで女性が話しかけてくる。
 それに笑顔で相槌を打ち、話に合わせて言葉を返す。
 一人の女性との話が長くなれば、他の女性の反感を買う。
 偏らない様……一人一人と同じ様に接し……なるべく誤解を与えないように……。

 そんな日々は、段々と俺の心をすり減らしていった。

 もうすぐ学園を卒業する時期になる。
 卒業が近くなると、想いを告げる女性が増えると聞いた。
 その事を考えると胃がキリキリと痛みだす。
 それに卒業すれば、いよいよ本格的な婚約者選びが始まるだろう。 
 俺が公爵の爵位を継ぐとなればそれは当然な事だ。

 だが……俺は女性を愛する事が出来るのか……?
 
 頭に思い浮かぶのは俺に群れる女性達の姿。
 あの中から一人を選び、甘い愛の言葉を囁き、その唇に触れ、肌を重ね合わせ――。 

「うっ……!」

 その事を想像して、激しい吐き気を催す。 
 込み上げる嫌悪も、蓄積された本音も全て飲み込み、逃れられない現実にもだえ苦しむ。

 無理だ……もう……何も考えたくない。

 いっその事、みんな俺の事を嫌いになってくれたらいいのに――。
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