婚約破棄されたい公爵令息の心の声は、とても優しい人でした
 その時、ガチャリと部屋の扉が開く音がした。

「おにいさまー! おかえりなさい!」

 弟のルーズベルトが無邪気な笑顔を向けて俺の体に飛び込んできた。

「ああ、ただいま。いい子にしていたか?」

 小さい体を抱き留め、頭を撫でるとルーズベルトは「へへっ」と得意げに笑い鼻を高くした。

「うん! 午前中はおべんきょうをがんばったから、午後はお庭で虫を捕まえに行ってたんだ! すごい大きい蝶を捕まえたんだよ! 今度お兄様も一緒に行こうよ!」
「ああ、そうだな。次の休みの日にでも一緒に行こうか」
「わぁーい! 嬉しいなぁ!」

 何の曇りもない純粋な笑顔に荒んだ心が癒される。それと同時に、何の悩みも無い弟が羨ましくも思えた。
 それも当然だ。ルーズベルトはまだ六才。女性関係に悩まされる事もないし、何を言っても『まだ幼いから仕方ない』という理由で許される。
 子供の特権というやつだろうか。
 本当に羨ましいな……。

 …………。

 その時、俺の頭の中にとんでもない考えが過った。

 とても現実的な方法ではない。父上にも迷惑をかける事になるだろう。
 それはさすがに無理だ……と、必死にその考えを拭い去ろうとするが、どうしても気になった。

 もしかしたら、この方法なら誰も傷付ける事無く問題を解決できるのではないかと。

 三日三晩考えた末、俺はその考えを実行に移した。

 そうせざるを得ない程に、俺の心は追い詰められていたのだろう。


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