婚約破棄されたい公爵令息の心の声は、とても優しい人でした
「あ、ヴィンセント様! おはようございます!」
「ヴィンセント様、本日もご機嫌麗しゅうございます」
「ああ、今日もお美しい……!」
学園の門前を陣取る女性達が、俺の姿を確認するなり嬉しそうに声を掛けてくる。
そんな彼女達に、俺はルーズベルトの様な無邪気な笑みを作り上げ、練習してきた高音で声を張り上げた。
「みんなおっはよー! ええー!? なになに!? お姉さんたち、僕を待っててくれてたの!? うっっれしいなぁー!」
ブンブンと大きく手を振り、少年の様に高い声を上げると、令嬢達はキョトンと目を見開き固まった。
「え……? ヴィンセント様……?」
そこに俺の付き添いで来た使用人が前に出て、唖然とする令嬢達に事情を説明し始めた。
「実は昨日、ヴィンセント様は崖から転落して頭を強く打ってしまった様で……その後遺症で、このように子供返りしてしまい――」
その話を聞くなり、令嬢達は見る見る顔を青く染めていく。
無言のまま立ち去る女性、ワナワナと震えながら去る女性、瞳に涙を滲ませながら口惜しそうに去って行く女性、様々な姿を見せながら令嬢達は一人残らず解散していった。
それからの学園生活は女性関係に悩まされる事もなく、平和に過ごす事が出来た。
仲の良かった友人も、俺から離れて行ってしまったが……それも覚悟の上だった。
学園を卒業した俺の元には、事情を知らない貴族達から多くの婚約話が持ち上がった。
だが俺と顔を合わせた婚約者候補の令嬢は、最初こそ頬を赤く染めるも、俺の子供の様な振る舞いを見て早々に話を切り上げた。後日、婚約の話は無かった事にと丁寧に書かれた手紙が届いた。
そんな事を繰り返すうちに、俺の婚約話は鳴りを潜めた。
子供のふりをするのは少し疲れるが、今までの事を考えればずっとマシだった。
こうしている限りは、女性は誰も寄って来ない。
熱い視線を向けられる事も、体を好き勝手触られる事も、付き纏われる事もない。
ようやく平穏な日々を取り戻す事が出来たのだ。
例え、誰にも本当の姿を見せる事が出来ないのだとしても。
この方法なら、誰も傷付かない。
時折感じる虚しさも、心の内に押し込んだ。
「ヴィンセント様、本日もご機嫌麗しゅうございます」
「ああ、今日もお美しい……!」
学園の門前を陣取る女性達が、俺の姿を確認するなり嬉しそうに声を掛けてくる。
そんな彼女達に、俺はルーズベルトの様な無邪気な笑みを作り上げ、練習してきた高音で声を張り上げた。
「みんなおっはよー! ええー!? なになに!? お姉さんたち、僕を待っててくれてたの!? うっっれしいなぁー!」
ブンブンと大きく手を振り、少年の様に高い声を上げると、令嬢達はキョトンと目を見開き固まった。
「え……? ヴィンセント様……?」
そこに俺の付き添いで来た使用人が前に出て、唖然とする令嬢達に事情を説明し始めた。
「実は昨日、ヴィンセント様は崖から転落して頭を強く打ってしまった様で……その後遺症で、このように子供返りしてしまい――」
その話を聞くなり、令嬢達は見る見る顔を青く染めていく。
無言のまま立ち去る女性、ワナワナと震えながら去る女性、瞳に涙を滲ませながら口惜しそうに去って行く女性、様々な姿を見せながら令嬢達は一人残らず解散していった。
それからの学園生活は女性関係に悩まされる事もなく、平和に過ごす事が出来た。
仲の良かった友人も、俺から離れて行ってしまったが……それも覚悟の上だった。
学園を卒業した俺の元には、事情を知らない貴族達から多くの婚約話が持ち上がった。
だが俺と顔を合わせた婚約者候補の令嬢は、最初こそ頬を赤く染めるも、俺の子供の様な振る舞いを見て早々に話を切り上げた。後日、婚約の話は無かった事にと丁寧に書かれた手紙が届いた。
そんな事を繰り返すうちに、俺の婚約話は鳴りを潜めた。
子供のふりをするのは少し疲れるが、今までの事を考えればずっとマシだった。
こうしている限りは、女性は誰も寄って来ない。
熱い視線を向けられる事も、体を好き勝手触られる事も、付き纏われる事もない。
ようやく平穏な日々を取り戻す事が出来たのだ。
例え、誰にも本当の姿を見せる事が出来ないのだとしても。
この方法なら、誰も傷付かない。
時折感じる虚しさも、心の内に押し込んだ。