婚約破棄されたい公爵令息の心の声は、とても優しい人でした
「ヴィンセント。お前に紹介したい令嬢がいるのだが、会ってみる気はないか?」
もうすぐ二十歳を迎える頃、父上からの突然の提案だった。
これにはさすがに驚いた。父上自らが婚約者候補を薦めてくる事は今までなかったからだ。
「うん! 分かった! 楽しみにしてるね!」
いつも通り、子供の笑顔を貼り付け言葉を返す。
父上が何を思ってそんな事を言い出したのかは分からない。だが、たとえ誰であろうと同じ事だ。
こんな俺の姿を受け入れる女性なんているはずがない……そう思っていたのに。
「分かりました。私が彼の婚約者になります」
まさかそんなにあっさり受け入れられるとは――。
レイナが婚約者になってから、俺の日々は少しずつ充実していった。
子供を演じるようになってから、俺の相手をまともにする人なんていなかった。
だが、レイナは友人のように俺との会話を楽しんでくれた。虫採りの話をすれば、珍しい蝶が生息する場所を教えてくれたり、嫌いな人参の話をすれば、俺でも食べられるようにと甘い人参ケーキを作ってくれた。よく転んだり粗相する俺を見ても、呆れず世話を焼いてくれた。
そんな彼女の優しさに、荒んだ心が癒されていくのを感じた。