婚約破棄されたい公爵令息の心の声は、とても優しい人でした
 公爵邸にいる時も、弟と遊ぶこともあったが、それ以外は殆ど一人部屋に閉じこもっていることが多かった。
 だが、レイナと手紙を交わす様になり、何もない日常に目的が生まれた。
 たった一文書く為だけに、机に向かって何を書こうかと思いを巡らせた。
 そのうち、一文だけじゃ足りなくなり、二文、三文と増やしていった。
 彼女から手紙が届くのも楽しみの一つとなった。
 人一倍力が強い彼女の書く文字は、意外としなやかで柔らかく女性らしい上品さがあって……彼女の優しさが文字に表れているようにも思えた。
 そんな手紙を目にする度に、彼女に会いたい気持ちを募らせるようになった。
 
 会えば彼女の何気ない優しさに感動し、過酷な環境の中でも逞しく生きる姿に心が震えた。

 そう――レイナはとても強い女性だ。

 俺の中にある、『女性は儚く諸い』というイメージに、彼女は当てはまらない。

 だから一緒に居て落ち着くのだろうか。

 彼女の隣でなら、下手な気遣いもなく、ありのままの自分の姿を見せられるのかもしれないと期待せずにはいられなかった。

 だが――きっと俺ではレイナを幸せに出来ないだろう。

 心に深く刻み込まれたこの体質は、きっと彼女を困らせてしまう。
 
 だから早く俺との婚約なんか無くしてしまえばいい。

 女性を拒む事が出来ない俺からではなく、彼女から婚約破棄を申し出てくれれば――。


 ガァンッッ!!!

 ――!?

 突如、何かが破壊される様な物凄い音がパーティー会場の方から鳴り響いた。

 なんだ!? 会場の方から……?
 レイナは無事なのか!?
 
 咄嗟に足を走らせ会場へと戻っていく。

 会場まであと少し……その時――。

「ねえ、あなた達。さっきから心の声がダダ漏れになってるんじゃない?」

 はっきりとしたレイナの声が、会場の中から聞こえてきた。
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