婚約破棄されたい公爵令息の心の声は、とても優しい人でした
「な、なによ!? 殴る気!? そんな事したら私の親が黙っていないわよ!」

 さっき私に声を掛けてきた令嬢が、眉を吊り上げ抗議の声を放つ。それに続けと、他の二人も強気に私を睨み付けてきた。

 そんな彼女達の姿に呆れるしかない。
 先程まであからさまに私達を侮辱していた発言について少しも反省が見られない。
 自分達の言葉がどれほど人の心を踏みにじっているのか、考えもしないのね。
 
 ヴィンセント様とは大違い。

 彼にも彼女達ほどの身勝手さが少しでもあれば、あんな風に苦しむ事はなかったのだろう。
 誰よりも優しい彼は、相手を傷付けるくらいなら自分が傷付く事を選ぶような人だから。

 だけど私は違う。
 私は彼みたいに優しい人間ではない。
 すぐに怒るしムキになるし負けず嫌い。手が出るのも口が出るのも早い。
 そうやって自分を守ってきた。心の奥に潜む弱い自分を――。

 たとえ彼女達が『儚く脆い存在』なのだとしても私には関係ない。
 彼女達は私が大切にしている人達を侮辱したのだから。
 何も知りもしないのに……目に見えるもの、聞こえる事だけを真実と決めつけて……。

 許さない。
 そっちがその気なら、こっちだって黙ってられないわよ。
 お望みとあらば、血みどろの肉弾戦でもなんでもやってやろうじゃないの。 
 
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