婚約破棄されたい公爵令息の心の声は、とても優しい人でした
16.本当の姿
再びドス黒いオーラを漂わせ始めたヴィンセント様は、握っていた私の手を丁寧に元の位置に戻すと、マーガレットの父親と向き合った。
「私の婚約者を泣かせたのはお前か?」
「え……?」
ヴィンセント様に憎悪の眼差しを向けられたマーガレットの父親は、口を開けたまま唖然としている。
「おい。お前に言ってるんだ、ウィーリー伯爵。ボーッと突っ立ってないでさっさと答えろ」
「……はっ! こ……これはこれはヴィンセント様! ご無沙汰しております!」
マーガレットの父親は滝の様な汗を流しながら慌てて頭を下げた。その姿は先程まで傲慢な態度を取っていた人物とは思えない程に縮こまっている。
そんな彼の後頭部を見下ろしながら、ヴィンセント様は苛立つ様に言葉を放った。
「今更そんな挨拶は必要ない。それよりも、お前はさっきレイナに話しかけていたようだが……何の話をしていたんだ?」
「うっ……。それは……ですね……どうやらレイナ嬢が私の娘と仲良くして下さってたようなので、そのご挨拶をしようかと……」
マーガレットの父親はそう言うと、空笑いしながら脂汗でテカっている自身の頭を撫でている。
見え透いた嘘に、ヴィンセント様は目を細めて軽蔑の眼差しを向ける。
「そうか。お前にとって挨拶とは相手を罵倒する事なのか。……それなら私への挨拶も同じ様に出来るのだろうな」
「ひゃぇ!? そっそそそそれは……そういうわけには!」
「どうした? 早く言ってみろ。その挨拶とやらを」
「あ……あ……あの! これには事情があって……! 私の娘が詳しい事を知ってますから! すぐに連れて参りますので!」
「え!?」
突如、話を振られたマーガレットは驚愕の表情で父親を凝視している。
そんな娘へ、父親は無情にも声を荒げた。
「おい! マーガレット! ヴィンセント様に事の経緯をご説明して差し上げろ!」
「そんな……お父様が説明すればいいじゃないの!」
「私は途中からしか見ていないから詳しくは知らん! ほら、早くしろ!」
そう言うと、マーガレットの父親は嫌がる様に首を振る彼女の手首を掴み、ズルズルとヴィンセント様の前まで引きずっていく。
「私の婚約者を泣かせたのはお前か?」
「え……?」
ヴィンセント様に憎悪の眼差しを向けられたマーガレットの父親は、口を開けたまま唖然としている。
「おい。お前に言ってるんだ、ウィーリー伯爵。ボーッと突っ立ってないでさっさと答えろ」
「……はっ! こ……これはこれはヴィンセント様! ご無沙汰しております!」
マーガレットの父親は滝の様な汗を流しながら慌てて頭を下げた。その姿は先程まで傲慢な態度を取っていた人物とは思えない程に縮こまっている。
そんな彼の後頭部を見下ろしながら、ヴィンセント様は苛立つ様に言葉を放った。
「今更そんな挨拶は必要ない。それよりも、お前はさっきレイナに話しかけていたようだが……何の話をしていたんだ?」
「うっ……。それは……ですね……どうやらレイナ嬢が私の娘と仲良くして下さってたようなので、そのご挨拶をしようかと……」
マーガレットの父親はそう言うと、空笑いしながら脂汗でテカっている自身の頭を撫でている。
見え透いた嘘に、ヴィンセント様は目を細めて軽蔑の眼差しを向ける。
「そうか。お前にとって挨拶とは相手を罵倒する事なのか。……それなら私への挨拶も同じ様に出来るのだろうな」
「ひゃぇ!? そっそそそそれは……そういうわけには!」
「どうした? 早く言ってみろ。その挨拶とやらを」
「あ……あ……あの! これには事情があって……! 私の娘が詳しい事を知ってますから! すぐに連れて参りますので!」
「え!?」
突如、話を振られたマーガレットは驚愕の表情で父親を凝視している。
そんな娘へ、父親は無情にも声を荒げた。
「おい! マーガレット! ヴィンセント様に事の経緯をご説明して差し上げろ!」
「そんな……お父様が説明すればいいじゃないの!」
「私は途中からしか見ていないから詳しくは知らん! ほら、早くしろ!」
そう言うと、マーガレットの父親は嫌がる様に首を振る彼女の手首を掴み、ズルズルとヴィンセント様の前まで引きずっていく。